路傍の草、野辺の花

凡脳ブログ(佐藤幹夫)

カワラナデシコ、フシグロセンノウ


イメージ 2フシグロセンノウ 林床の薄暗いところに咲いていると遠目にもそれとわかる。

 井伏鱒二氏に『コタツ花』という短編があり、冒頭のほう「花びらはナデシコに似て、ナデシコと違って四弁の朱色の花である」。おわりには別の地で「オデンバナ」と呼ばれていること紹介し、「朱色の四弁花で、花びらはナデシコよりも大ぶりで肉がある。花びらをむしって裏返しに並べると炬燵のように見えるからコタツバナと云うのだと反故伝が云っていた」と記述。
 小説自体は花と無関係に渓流釣りや、樹木を頼りに対岸へ渡ろうとする蛇の試みを描写する。私はひそかにこのコタツ花はフシグロセンノウではないかと考えている。理由は朱色、ただ一点。この花もナデシコ科であり円筒形の萼をもつ。葉はナデシコより幅広い。コタツの意味を言えば、昔は掘り炬燵であり炬燵掛けをめくって覗けば中に炭が朱色に光る。一般に熱い炎を表現する際「真っ赤に燃えた」と形容するが炎は朱色、温度が高ければ黄色に近づき、鋳物師なら溶けた鉄の色で温度を判断する。たとえばままごと遊びの想像力を持った少女が薄暗いところに咲いた朱色の花に炬燵の火を連想しても不思議はない。
「わー、あったかい」と遊び心に手をかざすかもしれない。
 では作者が二度も念を押した四弁花はどうか。これは五弁花である。えー、それは、あのー、井伏氏の記憶違いではないか。私などあらゆる能力の劣化した域におり、「目はかすみ歯抜け尿漏れ物忘れ」が最近の句。その無能を他者に敷衍する誤りは充分承知で言っている。この花が見られるようになる7月頃は写真のようにだらしなく花弁が離れず、むしろ丸みを帯びた四辺形の印象さえある。
 どなたかこの季節、野辺にある朱色の花を他にご存知ならご教授願いたい。